人生の縁側の陽だまりで出会った素晴らしき人や関わった猫。絵画作家 香本博の 日常と制作の狭間での心の樹海


by art-komoto
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07 ミーの生きざま 3 噛まれた乳首

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ミーと私は18年近く共に生きた。
最後まで、2階で眠る私を起こしに
急な階段を、朝登ってきた。

血液中の酸素を送る物質が不足し
時折体をばたばたと痙攣させた。
心配なので地元の病院で
点滴のビタミン補給で入院させていた。

吉祥寺の個展の2日目だった。
その日、西武秩父駅に向かうときに
病院から電話があった。
よもや・・予感があった。
ミーが危篤状態・・。
容態を聞くと、来られるまで間に合うかどうか・・
すぐさま病院に向かった。

ミーは日中なのに瞳孔が開き
死の影の匂いがしていた。
私が声をかけると叫んだ!
ミーのアクションが医師に気づかせ
電車に私が乗る前に
この日に自宅に帰化できるように
したのだと思う。
ミーが私たちを呼んだのだ。

自宅近く、車から降りたミー
もう意識(何を言ってるかわかる)はないと思いますよ
そう医師は話していたが
自宅に、我が家のある地に
戻ってきたのだということを匂いで嗅ぎ分けた。
ミー君!ミー君
二人で呼びかけた。
すると、まさにミーの目が治った。
開いたままの瞳孔が
もとの日中の瞳に戻ったのだ。

帰ってきたよ
お前の家に帰ってきたよ
私はミーを広い部屋に寝かせ
薪ストーブをつけた。
大好きだった薪ストーブの近くだ。
暖かい空気
燃える火の色の優しさ
木のはじける音楽
いつもミーは心地よく幸せそうに眠った。
ここだよ、ミー君。

パートナーが、ミーの好物だった食材を
手当たり次第に買ってきてくれた。
そして呑み込む力のない口への
スポイドも探してきた。
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薪のパチパチという音に
耳を動かせて反応させていた。
また瞳孔が開こうとする。
大声でミーに呼ぶ!
また目が戻りかかる・・
闘っている・・こいつは今
一生懸命、まさに命がけで闘っているのだ!
体が痙攣する
牙を剥いて唸るミー。

時折口をぱあっと開けたままにする
水をスポイドでやる。
飲んでいる・・まだ飲む力がある。
鱈のかけらは口にしないが
甘エビを指でつぶして口に押し込む・・
わずかに呑み込んだ。
美味しいか?ミー。
元気になってくれ!生きてくれ!

やがてパチパチという薪の音にも
ミーの耳は反応しなくなった。
ミーはのけぞっていた体を丸めるようにし
厳しかった目は眠るようにやすらかになった。

体に半分かけていた布団を開けると
大量の大便をしていた。
ちゃんとした、ゆるくない普通の便だった。
断末魔の今、いったいどこにそんな力が潜んでいたのか。
家に帰って
大好きな自分の居場所に横たわって
安心できたのだろうか。

暖められた空気の中で
ぐっすりと眠るように
2006年9月16日午後1時15分
ミーは逝った。
大往生だった。

最後まで闘ったミー
生きることを、生きざまを
私たちに見せ付けてくれた。
私たちは頬に流れる涙も拭かず
ミー君に感謝の杯を交わした。

家の庭の見晴らしの良い場所に
ミーを眠らせた。
記念樹に明るい黄色のアカシアの樹を植えた。
周りにも彼岸花の球根や百合などを植えた。
やすらかに土に帰っておくれ。

私は胸の痛みを感じていた。
病院から出て車に乗り込む前に
抱いていたミーが私の乳首を噛んだのだ。
意識が薄れる中で
私を噛むことで必死に自分と闘っていたのか。
あるいは私を体当たりで求めていたのか。
遅いぞ、この野郎!ということなのか。

いずれにしても
必死に生きていくことへの
ミー君のメッセージだったと思う。

ミー君は、こうして書いている私の
部屋の窓から見える場所に眠っている。
私の心に開いてしまった大きな穴は
なかなか塞がらないだろう。
でもミーは、私の絵を踏むことは無かった。
資料を汚したり、パレットの上を歩こうとしたことはあっても
留守中でも絵を汚したことは一度も無い。
よく餌をねだるミーだったが、絵画制作中は
近寄りもしなかった。

ありがとう、ミー。
今の俺を笑っちゃうよね。
こんなに弱い俺を。
絵を描く俺の背中をずっと見ていたミー。
何度も描かせてくれたミー
ありがとう。

ありがとう
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by art-komoto | 2006-10-29 08:54 | Cat 猫 ネコとの縁 | Comments(0)